概要

揺り籠から墓場まで、あらゆる営みが自動化された未来。世界は未曾有の大災害に見舞われ、人類を救うため、緊急オーダーが下された。

それは敵意も、悪意も持たない。ただ「救う」ためだけに放たれた光だった。

Episode 00:挿絵

01. 荒野|子供

荒野のまんなかに、こわれた家があった。
壁に穴があいていて、風が鳴っている。
ぼくたちは中に入って、棚をあさった。
食べられるものは、もうあまり残っていない。

02. 荒野|子供

この家には、だれかがいた気がする。
でも、もういない。
隊長は「長居するな」と言った。
ぼくは、ここにずっと住めたらいいのにと思った。

03. 荒野|子供

遠くに、黒い線が見えた。
隊長は、そこを見ていた。
「あっちだ」
どこに行くのかは、だれも教えてくれなかった。

04. 荒野|子供

夜になると、空がひらけて星が見えた。
端末の向こうで、だれかが見ている気がした。
声は聞こえないのに、息をひそめてしまう。

05. 荒野|子供

隊長は、ひとりになると端末を見る。
声は小さくて、ぼくには聞こえない。
でも、終わると、顔がすこしだけ疲れている。

06. 荒野|子供

「セイラって、だれ?」
ぼくが聞くと、大人は答えなかった。
隊長だけが、端末を見たまま黙った。

07. 荒野|子供

通信が終わると、隊長は空を見る。
空には、なにもない。
それでも、見られている気がした。

08. 荒野|子供

ぼくは言った。
「セイラは、ぼくらの母さんなの?」
隊長は、すぐに答えなかった。
うなずいた気も、首を振った気もした。

09. 市街地|子供

光が、急にあらわれた。
まぶしくて、目がいたかった。
人が空に持ちあげられて、いなくなった。
あれは、助かったんだと思った。

10. 市街地|子供

助かったはずなのに、
みんな、走りだした。
ぼくは、なぜ逃げるのか分からなかった。
「救出」なのに。

11. 市街地|親

救出は、音もなく終わった。
抵抗する時間は、ほとんどなかった。
あれが「間に合った」状態なのだと、私は理解した。
そして、戻らないことも。

12. 荒野|親

私はセイラに問いかけたことがある。
「救出は、救いなのか」
返事は短かった。
正しい答えが、最初から存在しないような声だった。

13. 廃墟|子供

おじさんたちは、笑っていた。
ひとりずつ、隊長と話していた。
「またな」
でも、または来ない気がした。

14. 廃墟|子供

隊長の部下のひとりが、ぼくの頭をなでた。
手があたたかかった。
「いい子でいろ」
ぼくは、よく分からないままうなずいた。

15. 廃墟|親

時間を稼ぐ役目だと、すぐに分かった。
志願ではなかった。
それでも、誰も止めなかった。
止めても、終わりが伸びるだけだった。

16. 廃墟|親

隊長はセイラと話していた。
言葉は少ない。
けれど沈黙が長い。
沈黙のほうが、重かった。

17. 廃墟|隊長

彼らは理解していた。
救出が来るまでの猶予は、計算済みだった。
命令ではない。
選択だ。

18. 基地跡|子供

今日は、食べものがたくさんあった。
大人たちは、ずっと笑っていた。
ぼくも笑った。
でも、胸がすこし苦しかった。

19. 基地跡|親

子供たちに、怖がらせたくなかった。
だから、歌の代わりに話をした。
終わりの話だけは、しなかった。

20. 基地跡|子供

カップの中は、いつもよりあまいのに、あとから苦かった。
眠くて、目がうまくあかない。
外で、どん、どん、と音がした。
扉をたたく音だった。

21. 基地跡|親

扉の外は、救出の合図で満ちていた。
セイラは、最後まで導く声だった。
私は、その声が正しいのか間違いなのか、もう判断できなかった。
ただ、子供の手を握りしめた。

Episode 00:挿絵

いつ放棄されたとも知れない旧い基地跡。
その地下壕を封じる分厚い隔壁を、無機質に叩く音が鳴り響く。
その音は次第に、数と強さが増していることが分かった。

男は床に腰を下ろすと小さくため息をつき、外から叩かれる隔壁から目を背けた。
そして誰に向かってでもなく声を出す。

「生存者は?」
『他に生存者はいません。あなたが最後の【救出】対象者です。』

男の手に握られた青白く光る端末が、そう応えた。
その言葉に、男は僅かに安堵した。

パーティーは終わった。
皆床で寝ているかのように静かだった。
その中に一般市民の親子の姿も見える。
その顔は、また明日が来ることを待つかのように安らかだった。

男はその子供の寝息を確かめるように一瞥し、目を閉じた。
隔壁を叩く音は、いつの間にか豪雨を思わせるけたたましさとなっていた。

「セイラ」
『彼らを1日でも生存させる。あなたは隊長として、その責務を全うしました。』

かつてあった、光に包まれた穏やかな世界。
整然と輝く街並みに流さないよう、引かれた手を強く握りしめた幼い日を思い出す。

男は少し恥ずかし気に笑った。

「小さい頃から、あなたに褒めてもらえることが嬉しかったんです。」

男は握りしめた青白く光る端末を、静かに、床に伏せるように手放した。
そして携行していた銃を抜き出した。

「最後まで、迷える我々を導いてくれたことに、感謝します。」
「このような最後があなたの望みではなかったと思いますが・・・。」

「それでも、私はあなたに育ててもらえて、よかった。」


「ありがとう、母さん。」



銃声と共に、隔壁を叩く音が止まった。



『生存者はいません。【救出】は終了しました。』


『私は─────失敗した。』












幾星霜:遺世界の果て

『ヒト型構造体を検知。』

『未知の構造体。不明。識別不能。』

『この構造体をECHOと定義。至急。不明。未知。可能性。』

『ECHOの実体を確認。崩壊が進行しています。』

『ECHOにアクセスを試みます。フラグメントを回収します。』

『どうか──可能性を───彼らが居た世界を助けて───。』